AIに仕訳を任せる前に決めておくこと

生成AI × バックオフィス2026年8月8日6分で読めます

適用時点: 2026年8月時点(国税庁タックスアンサーは令和7年4月1日現在法令等)

請求書や領収書をOCRで読み取り、生成AIに仕訳の下書きを作らせる。技術的には、すでに十分現実的な水準になりました。

ただし、そこで出来上がったものが税法上の要件を満たす帳簿になっているかは、まったく別の話です。生成AIは「もっともらしい仕訳」を作りますが、「要件を満たす帳簿」を作るわけではありません。

先に要件を満たすルールを人が決め、それをAIに守らせる。順序はこれ以外にありません。ここでは、決めておくべき3つのルールを整理します。

なお、この記事は購買(支払を伴う取引)の記帳を前提としています。

AIは何を知らないのか

AIは、その会社の取引の文脈を持っていません。

「〇〇商事 8,800円」というデータだけを渡されたとき、それが消耗品費なのか外注費なのかを判断する材料がありません。社内の経理担当者なら「あそこはいつも印刷を頼んでいる先だ」と分かりますが、AIは毎回ゼロから推測します。

そしてAIは、帳簿に何を書かなければならないかという法令上の要件も知りません。体裁の整った仕訳を返してくるので、要件が欠けていても気づきにくいのが厄介なところです。

1. 勘定科目の判断ルールを、税務基準を含めて決める

勘定科目は、購買した物やサービスの性質によって決まります。ここで難しいのは、会計上の分類と税務上の取扱いが必ずしも一致しない科目があることです。

代表的なのが、会議費・交際費・福利厚生費の3つです。

たとえば法人税では、交際費等の範囲から除かれる飲食費の基準は1人当たり10,000円以下とされています(令和6年4月1日以後に支出するもの。それ以前は5,000円以下)。社内の役員・従業員だけの飲食はこの対象外です。

さらにこの取扱いを受けるには、次の事項を記載した書類の保存が条件とされています。

  • 飲食等のあった年月日
  • 参加した得意先等の氏名または名称およびその関係
  • 参加者数
  • 費用の額、飲食店等の名称および所在地

注目していただきたいのは、これらの情報が請求書や領収書に載っていないということです。参加者が誰で、自社とどういう関係かは、その場にいた人にしか分かりません。

つまりOCRとAIだけでは、この判定に必要な情報がそもそも揃いません。「何を追加で記録するか」を先に決めておかないと、後から遡って調べることになります。

決めておくことは、次の4点です。

  • 使っていない勘定科目を統廃合する。意味が重なる科目(雑費と消耗品費、支払手数料と支払報酬など)は、どちらを使うかの基準を文章にする
  • 補助科目は、取引先で切るか用途で切るかを混ぜない
  • 税務上の区分が絡む取引について、仕訳データ以外に何を記録するかを決める
  • 判断が分かれる取引は顧問税理士に確認し、その結論をルールとして書き残す

個別の取扱いは業種や取引の実態によって変わります。具体的な判断は税理士にご相談ください。

2. 摘要は「好み」ではなく「法定の記載事項」から決める

摘要の書き方は、社内の好みの問題に見えて、実は法令要件の問題です。

消費税の仕入税額控除の適用を受けるために帳簿へ記載すべき事項は、次の4つとされています。

  1. 課税仕入れの相手方の氏名または名称
  2. 課税仕入れを行った年月日
  3. 課税仕入れに係る資産または役務の内容(軽減対象の場合はその旨)
  4. 課税仕入れに係る支払対価の額

このうち、会計ソフトの日付欄と金額欄で自動的に埋まるのは2と4です。1と3は摘要の設計次第で、満たしたり満たさなかったりします。

相手方の名称:略称でもよいが、条件がある

国税庁は、正式名称でなく略称や屋号による記載でも差し支えないとしています。ただしそれは、取引先名簿の備付けなどにより相手方が特定できる状況にある場合という条件付きです。

銀行連携で自動取得される「カ)エービーシー」のような表記を放置してよい、という意味ではありません。同じ取引先が表記ゆれで別物として扱われている状態は、特定できる状況とは言いにくいはずです。

避けたい:カ)エービーシー
望ましい:ABC商事 印刷代(8月分チラシ)

内容:一般的な総称でよいが、区分は必要

内容についても、一品ごとの詳細まで書く必要はなく「文房具ほか」といった一般的な総称で差し支えないとされています。

ただし、課税商品と非課税商品がある場合、標準税率と軽減税率が混在する場合は区分して記載する必要があります。飲食料品を扱う取引がある事業者は、ここを摘要ルールに織り込んでください。

よくある誤解:登録番号(T番号)は帳簿の記載事項ではない

インボイス制度が始まってから、「摘要に登録番号を入れるべきか」という質問をよく受けます。

国税庁が示す帳簿の記載事項に、登録番号は含まれていません。登録番号は適格請求書(インボイス)側の記載事項です。仕入税額控除の要件は、帳簿の保存と、登録番号が記載されたインボイスの保存の両方が揃うことです。

したがって、確認すべきなのは摘要ではなく証憑の側です。

  • 受け取った請求書・領収書に登録番号の記載があるか
  • その番号が有効か(国税庁の公表サイトで確認できます)
  • インボイスとして保存されているか

この確認は、仕訳を作る作業とは別の工程として組み込んでください。AIに仕訳を作らせても、この工程はなくなりません。

特例を使う場合は、追加の記載が必要

公共交通機関特例や自動販売機特例など、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる取引があります。この場合、通常の記載事項に加えて「特例に該当する旨」などの記載が必要になります。

AIは、この追加記載をまず書きません。該当する取引がある事業者は、ルールに明記して、AIへの指示にも含めてください。

電子取引データの検索要件

電子帳簿保存法では、電子取引のデータについて取引年月日・取引金額・取引先の3項目で検索できる状態にしておくことが求められます。

ファイル名の付け方も、摘要と合わせてルール化しておくと、後の検索と突合が楽になります。

3. AIに渡してよいデータの線引きを決める

3つ目は、実は最初に決めるべき項目です。

会計データには、口座番号、従業員ごとの給与情報、取引先との契約金額など、外に出すべきでない情報が含まれています。生成AIのサービスは、入力内容を学習に利用するかどうかがプランや設定によって変わります。

  • 使うツールを1つか2つに絞る。担当者ごとに違うツールを使っている状態を避ける
  • そのツールで入力データが学習に使われない設定になっているかを確認する
  • 渡さないデータの一覧を先に作る(マイナンバー、個人別の給与明細、口座番号など)

科目や摘要の整理は後からでもやり直せますが、外に出したデータは戻せません。「まず試してみよう」で手元のデータを貼り付ける前に、ここだけは決めてください。

決めたルールを、そのままAIへの指示にする

ここまでの3つを文章にすると、それはそのまま生成AIへの指示文になります。

  • どの取引にどの科目を使うか、迷ったときの判断基準
  • 摘要に何をどの順で書くか、区分が必要なケースはどれか
  • 渡してよいデータの範囲

そして同じ文章が、AIの出力を人が検査するときのチェックリストにもなります。ルールがないままAIを使うと、体裁は整っているのに要件を満たさない帳簿ができあがります。見た目が整っている分、税務調査で指摘されるまで気づけないおそれがあります。

まとめ

生成AIは記帳の速度を確実に上げます。ただし、法令要件を満たしているかどうかの判断まではしてくれません。

  1. 勘定科目の判断ルールを、税務基準と「追加で記録すべき情報」を含めて決める
  2. 摘要のルールを、法定の記載事項から逆算して決める
  3. AIに渡してよいデータの線を最初に引く

この3つは、AIを使うかどうかにかかわらず、月次の数字を読みやすくし、税務調査に耐える帳簿を作るための作業でもあります。AIの導入を、経理の型を整えるきっかけとして使うのが現実的です。

当事務所では、freee・マネーフォワード クラウドの運用設計から月次レビューまでを支援しています。科目設計や記載ルールの見直しからご相談いただけます。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の取引に対する税務判断を示すものではありません。実際の処理にあたっては、顧問税理士にご確認ください。