青色申告特別控除が75万円へ 個人事業主が今から整える帳簿

個人事業主2026年8月22日7分で読めます

適用時点: 2026年8月22日時点(所得税法等の一部を改正する法律〔令和8年法律第12号〕は令和8年3月31日成立・公布済み)

青色申告特別控除は、複式簿記で記帳している個人事業主にとって所得を圧縮できる代表的な仕組みです。この控除の上限額を65万円から75万円に引き上げる内容を含む所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)は、令和8年3月31日にすでに成立・公布されています(財務省「所得税法等の一部を改正する法律案」)。この記事で扱う75万円への引き上げは、税制改正の大綱段階の見込みではなく、成立・公布済みの法令に基づく内容です。適用は令和9年分、つまり2027年分の所得税からです。

控除額が10万円上がること自体は歓迎できる変更ですが、上限を使うための要件も同時に見直されます。令和9年分から75万円の控除を受けるには、複式簿記による記帳とe-Taxによる期限内申告に加えて、国税庁が「優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存」と呼ぶ二つの経路のいずれかを満たす必要があります。何が変わり、何が変わらないのかを整理したうえで、今のうちに整えておきたい帳簿の話をまとめます。

現行の青色申告特別控除はどう決まっているか

国税庁「個人事業者の方が事業を営む場合の記帳・帳簿等の保存について」によれば、青色申告特別控除には現在3つの段階があります。

控除額 主な要件
65万円 複式簿記で記帳し、e-Taxによる申告または電子帳簿保存の要件を満たしていること
55万円 複式簿記で記帳していること
10万円 簡易な方法で記帳していること

65万円の段階だけ、複式簿記に加えて「e-Taxによる申告」または「電子帳簿保存」のどちらかを満たす必要があります。この2つは選択制で、どちらか一方を満たせば足りるのが現行制度です。

所得税法等の一部を改正する法律で何が変わるか

所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)により、この65万円と55万円の段階は次のとおり見直されます。

まず55万円の段階について、その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表及び損益計算書等をe-Taxで期限までに提出することが要件に加わったうえで、控除額が65万円に引き上げられます。

そのうえで65万円の段階について、この見直し後の要件(複式簿記とe-Taxによる提出)を満たす者であって、かつその年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳等について、優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存のいずれかを行っていることが要件に加わったうえで、控除額が75万円に引き上げられます。優良な電子帳簿の保存とは、仕訳帳及び総勘定元帳について、電子帳簿保存法(正式名称は電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)に定める、国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件を満たす電磁的記録の保存等を行うことです。デジタルシームレス保存とは、特定電子計算機処理システムを使用するとともに、電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、そのシステムを使用して国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件を満たす保存を行うことです。この二つの経路のどちらかを満たせば、75万円控除の対象になります(国税庁「電子取引の取引情報に係る電磁的記録に係る重加算税の加重措置の不適用の特例及び青色申告特別控除(個人事業者)の適用を受ける旨の届出書等に関する事例」)。

適用時期は令和9年分以後の所得税です。令和8年分の申告までは現行の65万円・55万円・10万円の制度のままで、令和9年分から新しい金額と要件に切り替わります。

言い換えると、これまで「e-Taxによる申告」と「電子帳簿保存」のどちらか一方で足りていた上位の控除区分が、令和9年分からは複式簿記とe-Taxによる申告に加えて優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存のいずれかを満たす場合の75万円と、複式簿記に加えてe-Taxによる申告のみを満たす場合の65万円とに分かれる形になります。細部の運用は今後国税庁が公表する案内で明らかになる部分もあるため、確定申告の準備を進める段階で最新の情報も確認してください。

75万円控除に必要な2つの要件

令和9年分から75万円の控除を受けるには、次の2つの要件を満たす必要があります。

1つ目は、見直し後の65万円の要件をすでに満たしていることです。具体的には、複式簿記による記帳に加えて、所得税の確定申告書、貸借対照表、損益計算書等をe-Taxで期限内に提出していることを指します。書面提出やe-Taxの利用はしていても提出期限を過ぎた場合は、この要件を満たしません。

2つ目は、優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存のいずれかを行っていることです。優良な電子帳簿の保存は、仕訳帳及び総勘定元帳について、電子帳簿保存法に定める要件を満たす電磁的記録による保存等を行う経路です。会計ソフトで記帳しているだけでは足りず、訂正・削除の履歴が残ること、記録事項の相互関連性が確認できること、日付・金額・取引先で検索できることなど、電子帳簿保存法が求める要件を満たした状態で保存している必要があります。デジタルシームレス保存は、特定電子計算機処理システムを使用し、電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、そのシステムを使用して国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件を満たす保存を行う経路です。こちらは仕訳帳・総勘定元帳そのものの保存要件というより、電子取引データの保存の仕組みに着目した経路であり、対象となるデータの範囲や求められる保存方法は、優良な電子帳簿の保存の要件とは異なります。どちらの経路が自分の事業にとって現実的かは、使用している会計ソフトや電子取引の実態によって異なるため、確定申告の準備を進める段階で国税庁が公表する最新の案内も確認したうえで、税理士にご相談ください。

個人事業主が今から整えておきたいこと

令和9年分の申告は2028年に入ってから行うものですが、対象になるのは令和9年(2027年)中の記帳です。年の途中から要件を満たす帳簿に切り替えるのは負担が大きいため、令和9年が始まる前、できれば令和8年のうちに準備しておくと無理がありません。

まず、現在の記帳が複式簿記になっているかを確認します。簡易な記帳のまま65万円や55万円の控除を受けているつもりになっているケースは見直しが必要です。

次に、優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存のどちらの経路を満たすかを検討します。優良な電子帳簿の保存を選ぶ場合は、使っている会計ソフトが電子帳簿保存法上の要件に対応しているかを確認します。クラウド会計ソフトの多くは対応機能を備えていますが、機能があることと、実際に自分の使い方でその要件を満たす設定になっていることは別です。訂正削除の履歴が残る設定になっているか、検索条件を満たす形でデータが保存されているかは、ソフトのヘルプページや設定画面で確認しておく必要があります。デジタルシームレス保存を選ぶ場合は、特定電子計算機処理システムを使って、対象となる電子取引データを所定の要件で保存できる体制になっているかを確認します。どちらの経路が自社にとって適しているかは、使用している会計ソフトや電子取引の実態によって異なるため、判断に迷う場合は税理士にご相談ください。

また、e-Taxでの申告と提出書類の期限内提出を毎年の運用として定着させます。確定申告書だけでなく、貸借対照表や損益計算書も含めて期限内にe-Taxで提出することが要件になるため、申告時期に慌てて対応するのではなく、日々の記帳の延長として準備しておくことが望ましい形です。

最後に、仕訳帳と総勘定元帳が事業年度を通じて欠落なく作成されているかを確認します。期中で会計ソフトを乗り換えた場合や、一部の取引を手作業で別管理している場合は、年間を通じた記帳の一貫性が崩れやすいので注意が必要です。

まとめ

青色申告特別控除の上限は、令和9年分の所得税から65万円が75万円に引き上げられます。この引き上げは、令和8年3月31日に成立・公布された所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)に基づくものです。上限を使うには、複式簿記による記帳とe-Taxによる期限内申告に加えて、優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存のいずれかを行っている必要があります。

現行制度で65万円控除を受けている方でも、これまでe-Taxによる申告と電子帳簿保存のどちらか一方だけで要件を満たしていた場合は、令和9年分に向けて記帳の運用を見直す必要が出てきます。自分の記帳がどの要件を満たしていて、どこを整えれば75万円の対象になるのかは、事業の実態によって異なりますので、税理士にご相談ください。

参考

税制改正経理DX