大胆な投資促進税制の申請開始:即時償却と税額控除をどう選ぶか

税制改正・法令アップデート2026年8月19日5分で読めます

適用時点: 2026年8月19日時点(令和8年度税制改正および産業競争力強化法の改正を前提)

経済産業省が2026年7月31日に、特定生産性向上設備等投資計画の確認申請の受付を開始しました。令和8年度税制改正で創設された、いわゆる大胆な投資促進税制です。

制度の名前だけを見ると大企業向けに思えますが、中小企業者等については投資額の下限が引き下げられています。設備投資の規模が大きい会社であれば、検討の対象に入ります。

ただしこの制度は、設備を買えば自動的に使えるものではありません。投資計画について経済産業大臣の確認を受けることが前提で、その計画には収益性の要件が付いています。順序を間違えると、確認を受ける前に発注してしまうといった形で適用の余地を失います。

何をもって対象になるのか

出発点は設備ではなく投資計画です。令和8年度税制改正の大綱によれば、投資計画に記載された生産性向上設備等の取得価額の合計額が35億円以上、中小企業者又は農業協同組合等については5億円以上であることなどの基準に適合することについて、経済産業大臣の確認を受けたものが対象になります。

ここでいう金額は、プロジェクトの総事業費ではありません。投資計画に記載された対象設備の取得価額の合計額です。用地の取得費や、対象資産に該当しない支出を含めて5億円を超えているという判断は成り立ちません。

もう一つの軸が収益性です。年平均の投資利益率が15%以上となることが見込まれる計画であることが求められます。ここは実績ではなく見込みですが、根拠のない数字を置いて通る性質のものではありません。売上と費用の前提、設備の稼働率、回収期間の置き方まで含めて説明できる計算にしておく必要があります。

期限は2つに分かれています。経済産業大臣の確認は、産業競争力強化法の改正法の施行日から令和11年3月31日までに受ける必要があります。対象設備については、確認を受けた日からその日以後5年を経過する日までに、取得等と事業供用の双方を行うことが税制上の期限です。

令和11年3月31日は確認の期限であって、設備を取得する期限ではありません。実務では、確認を受けた投資計画上の導入時期と、この5年の期限の両方を管理します。設備ごとの納期と検収時期を計画段階から押さえておいてください。

対象資産には取得価額の下限がある

国税庁の令和8年度法人税関係法令の改正の概要では、対象となる資産と取得価額の下限が示されています。機械装置は1台又は1基の取得価額が160万円以上、工具及び器具備品は120万円以上、建物は1,000万円以上、建物附属設備及び構築物は120万円以上、ソフトウエアは70万円以上です。

投資計画の合計額が要件を満たしていても、個々の資産がこの下限を下回れば、その資産は措置の対象から外れます。計画の合計額と、措置を受けられる資産の集合は一致しないという理解が要ります。

即時償却と税額控除は別の判断

措置の内容は、即時償却か、取得価額の7%(建物、建物附属設備及び構築物は4%)の税額控除の選択です。税額控除には調整前法人税額の20%という限度があります。

どちらが有利かは、その年度の税額だけでは決まりません。即時償却は初年度の課税所得を減らしますが、その効果の中心は税負担の繰延べです。翌期以降の償却費はその分だけ減ります。一方の税額控除は、償却とは別に税額を直接減らします。

繰越欠損金によって当期の所得がすでに吸収される会社では、即時償却による当期の資金効果が生じにくく、新たに生じた欠損金が控除期限や控除限度にかかる可能性もあります。一方の税額控除にも、当期法人税額の20%という上限があります。控除しきれない額の3年間の繰越しは、国際経済事情激変事業適応計画の認定等を受けた一定の法人に限られており、一般に認められるものではありません。

したがって比較するべきは、欠損金の残高と期限、向こう数年の課税所得の見通し、税額控除として実際に使える額、そして金融機関へ示している利益計画との整合です。年度別の税額と控除額を並べた表を作れば、社内での合意も金融機関への説明も同じ資料で足ります。

他の設備投資税制との関係を先に確認する

中小企業庁の中小企業経営強化税制のページには、特定生産性向上設備等投資促進税制の適用を受ける場合、確認を受けた投資計画の期間中は経営強化税制の適用を受けることはできない旨が示されています。

ここは2つの判断を分けて考えます。即時償却と税額控除のどちらを選ぶかは、対象資産ごとに検討します。一方、確認を受けた投資計画の期間中は中小企業経営強化税制等を利用できないため、どの設備投資税制を使うかは、計画期間中に予定している投資全体を見て判断する必要があります。

補助金を併用する場合は、さらに確認が要ります。補助金で取得価額が減額される部分の扱い、圧縮記帳との関係、補助金の交付要件側の制限が絡むためです。

申請前に決めておくこと

制度の要件そのものより、社内の段取りで詰まることの方が多いと感じています。着手前に次の3点を決めておくと、後戻りが減ります。

投資利益率の計算を誰が作り、誰が承認するか。確認申請用の数字と、取締役会や金融機関に出す投資採算の数字を別々に作ると、前提の違いを後から説明できなくなります。前提条件と更新履歴を一本化しておきます。

設備の発注と確認申請の順序を誰が管理するか。現場が先に発注してしまう事故は、制度の理解不足ではなく連絡の問題で起きます。

そして、証跡をどこに残すか。確認を受けた日、設備ごとの取得日と供用開始日、計画変更の届出、証明書類は、決算と申告まで一本でつながる形で保管します。

まとめ

この制度は、投資計画の確認、投資利益率、対象資産の要件、取得と供用の時期、法人税額の限度を一体で満たして初めて検討できるものです。5億円を投資したから使える減税ではありません。

即時償却と税額控除の選択は資産ごとに、単年度の税額ではなく複数年度の課税所得と資金繰りで比較してください。どの設備投資税制を使うかは、中小企業経営強化税制との重複制限があるため、計画期間中の投資全体を見て、設備を発注する前に決めておく必要があります。

適用の可否や制度の選択は、法人区分、資産の種類、計画期間、補助金の有無によって変わります。個別の判断については、申請と発注の前に税理士へご相談ください。

参考