経営者保証なしに近づく決算書:会社と個人をどう分けるか

法人の税務・会計実務2026年8月19日6分で読めます

適用時点: 2026年8月19日時点(制度内容は変更される場合があります)

経営者保証を外したいという相談は、途切れることがありません。ただ、利益が出れば外れる、保証料を払えば必ず外せる、といった単純な制度ではないため、話が噛み合わないことがあります。

この記事では、経営者保証に関するガイドラインが求めているものを、決算書と月次の管理データに翻訳します。金融機関に提出する資料を作る話ではなく、日々の会計処理をどう変えるかという話です。

ガイドラインは何を求めているか

経営者保証に関するガイドラインは、平成25年12月に公表され、平成26年2月1日から適用されています。法的拘束力はないものの、主たる債務者、保証人および対象債権者によって、自発的に尊重され遵守されることが期待されている、という位置づけです。

経営者保証を求めない可能性がある場合として、主たる債務者に求められる経営状況が3つ示されています。

1つ目が、法人と経営者との関係の明確な区分・分離です。法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとりを、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ること、とされています。ここでいう資金のやりとりには、役員報酬や賞与、配当、オーナーへの貸付等が含まれます。

2つ目が、財務基盤の強化です。財務状況および経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する、とされています。

3つ目が、財務状況の正確な把握と、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保です。資産負債の状況、事業計画や業績見通しおよびその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明すること、とされています。

金融機関の側に何が求められているか

金融庁の中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針では、ガイドラインに基づき、主債務者の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断する中で、経営者保証を求めない可能性や代替的な融資手法を活用する可能性について検討するよう努めているか、という観点が示されています。

そして保証契約が必要と判断される場合には、どの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更や解除の可能性が高まるかについて、客観的合理的理由を説明することとされています。

ここは活用できる部分です。保証を外せないと言われたときに、どこが足りないのかを具体的に聞いてよい、ということだからです。曖昧な回答しか得られない場合は、質問の仕方を変えます。ガイドラインのどの要件について、どの数値がどの水準に達していないのか、という形で聞きます。

3つの要件を会計データに翻訳する

要件のままでは、明日から何をすればよいかが決まりません。会社側で管理できる数字に置き換えます。

区分・分離については、役員貸付金と仮払金の残高、そして役員報酬の水準が中心です。役員貸付金があると、法人と個人の資金が混在していると見られます。決算日だけ解消して期首に戻す処理では、実質的な分離とは評価されにくいでしょう。毎月の残高推移を見て、発生させない運用に変えます。

事業に使っていない資産が法人にある場合、あるいは事業用の不動産が個人名義で法人が使用している場合も、この論点に含まれます。賃貸借契約と賃料の設定が適正かを確認します。

財務基盤については、自己資本比率、債務償還年数、営業キャッシュフローの3つで見ます。債務償還年数は算式が一つに定まっておらず、有利子負債から現預金を控除するかどうか、分母に営業利益と減価償却費の合計を使うか税引後利益を使うかで結果が変わります。自社で試算するときは、どの算式を使ったかを資料に書き添えてください。

債務償還年数10年以内は、返済能力を見る際の実務上の目安の一つとして使われます。ただし経営者保証ガイドライン上の一律の基準ではありません。算式、業種、借入の目的、設備投資の段階によって評価は変わります。10年を超えたから直ちに保証が必要になるわけではありませんが、返済原資と改善計画について、より具体的な説明を求められることになります。

透明性については、月次決算の締め日数と、金融機関への報告頻度です。月次試算表が翌月の何営業日で出るか。資金繰り表を作っているか。予算と実績の差異について説明を用意しているか。この3つが揃っていれば、情報開示の要請に応えられます。

保証料の上乗せで選択する制度

中小企業庁は2024年3月15日から、事業者選択型経営者保証非提供制度の取扱いを開始しています。信用保証協会所定の保証料率に上乗せすることで、経営者保証を提供しないことを選択できる制度です。

要件として、直近の決算において代表者への貸付金等がなく、かつ代表者への役員報酬、賞与、配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないこと、直近の決算において債務超過でないことまたは直近2期の決算において減価償却前経常利益が連続して赤字でないこと、そして過去2年間において決算書等を申込金融機関の求めに応じて提出していること、が示されています。

上乗せされるのは借入金利ではなく、信用保証協会所定の信用保証料率です。原則として財務要件の双方を満たす場合が0.25%、いずれか一方のみを満たす場合が0.45%とされています。

要件を読むと、先ほど翻訳した項目とほぼ重なります。役員貸付金がないこと、債務超過でないこと、決算書を継続して提出していること。特別なことは求められていません。

日本政策金融公庫にも、一定の要件を満たす場合の経営者保証免除特例制度があります。いずれも利用の可否は個別の審査によります。

12か月で整える

いま保証を外せない状態でも、1年あれば数字は動きます。次の項目を月次で追うことをお勧めします。

役員貸付金と仮払金の残高。目標はゼロで、途中経過を毎月見ます。

自己資本の額と自己資本比率。役員借入金がある場合、金融機関がどう評価しているかを確認しておきます。

債務償還年数。分子と分母の両方を動かせるため、返済の進捗と利益の改善を分けて見ます。算式は毎月同じものを使ってください。

月次決算の完了までの日数。翌月10営業日以内を一つの目安にします。

金融機関への報告回数。四半期に1回でも、継続していることに意味があります。

これらを一枚の表にして毎月更新すれば、金融機関との面談でそのまま使えます。決算のときだけ資料を作る運用と、毎月の数字を出している運用では、説明の説得力が違います。

まとめ

経営者保証の解除や不要化は、3つの要件を形式的に満たせば自動的に認められるものではありません。金融機関が経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断します。

会社側でできるのは、法人と個人の間の取引を整理し、返済原資を安定させ、正確な月次情報を早く出し続けることです。まず12か月の計画を作り、役員貸付金の残高、自己資本、債務償還年数、月次決算の日数、金融機関への報告頻度を指標にして進めてください。

各金融機関の審査基準や個別の判断は公開情報からは確認できないため、保証が外れると断定することはできません。自社の状況に照らした具体的な進め方については、ご相談ください。

参考