AIが作ったExcelを決算に使う前に:数式・テスト・版・レビュー記録

生成AI × バックオフィス公開 2026年10月19日5分で読めます

適用時点: 2026年10月19日時点

執筆者: 檜垣秀治(公認会計士・税理士) 代表紹介を見る

AIを活用すれば、集計表や決算整理の計算シートを短時間で作成できます。しかし、見栄えが整い、合計額がそれらしく表示されても、そのまま決算に利用できるとは限りません。対象期間の誤り、集計漏れ、前年ファイルの参照といった問題は、使う前に見つける必要があります。

本稿では、AIが作成・修正したExcelを決算で使う前の確認手順を整理します。AIの操作権限については、経理・支払業務の権限表を作るで解説しているため、本稿では完成したファイルの計算と確認記録に焦点を当てます。

内部統制の考え方を確認手順に落とし込む

金融庁が公表する内部統制の基準・実施基準では、情報を漏れなく正確に処理すること、システムの開発・変更記録の保存、入力情報や例外処理の統制が示されています(実施基準本文52〜54頁)。

この資料は財務報告に係る内部統制の評価・監査の枠組みです。以下のExcel点検項目は、その考え方を参考にした本稿の実務提案であり、すべての企業に一律のテストや記録を義務付けるものではありません。決算への影響度、計算の複雑さ、利用頻度に応じて確認の深さを決めます。

入力・計算・出力を事前に定義する

はじめに、何を入力し、どのルールで計算し、何に使うファイルなのかを決めます。ここが曖昧なままでは、数式が正しく機能しても業務上の正解を確かめられません。

入力については、元データの出所、対象会社、対象期間、金額単位、必要な列を確定します。取込前後の件数と金額を照合し、除外行がある場合は理由を記録します。合計額だけでなく伝票番号などの識別項目で重複・欠落を確認すると、金額が相殺され、合計だけでは見えなくなる誤りにも気づきやすくなります。

計算については、対象取引の条件、配賦基準、端数処理、日付の扱いを文書化します。会計方針や税務上の判断をAIに依存せず、担当者が確認した前提を計算仕様として与えます。

出力については、集計結果を使う先(仕訳、決算内訳、報告資料)を特定します。部門別・全社の合計値や、計算シートから転記先までの数値を突き合わせ、利用までの流れを確認します。

機密情報を含む元帳や給与資料をそのまま外部AIへ送信することは避けてください。利用許可された環境とデータの取扱条件を確認し、数式の作成や初期テストには、仮データを使う方法を優先します。

数式に加え、マクロと外部参照を点検する

計算部分では、合計範囲の始点・終点、相対参照・絶対参照、条件分岐、固定値の埋め込みを検証します。数式をコピーした途中だけ値に置き換わっていないか、非表示の行やシートに前提が残っていないかも確認します。行を追加したときに集計へ含まれるかは、実際に試します。

Excelのエラーチェックは補助になりますが、業務上の計算ルールまで保証するものではありません。Microsoftの数式エラーの検出に関する説明も、考えられるすべての数式エラーの修正方法を網羅したものではないとしています。エラー表示を空欄やゼロに置換する式が、参照漏れや未入力を隠していないかも確認します。

マクロ、クエリ、外部参照がある場合は、処理内容と接続先を一覧にします。内容を把握できないマクロは有効化せず、担当者に確認します。外部参照についてはリンク先ファイル、対象期間、更新日時を検証します。Microsoftのブックのリンク管理では、数式だけでなく定義された名前やグラフ等の確認方法も解説されています。

決算確定時の数値を再現できるよう、参照元ファイルも合わせて保存する運用を検討します。後日参照先が更新されても、どの時点のデータで算出したかを追跡できる状態を維持します。

正常データに加え、境界値と例外処理をテストする

テストでは、入力値と期待する結果を先に決めます。期待値は、確認済みの仕様に基づき手計算や別の方法で求め、「合っていますか」とAIに問いかけるだけで確認を終了しないようにします。

  • 境界値: 条件が切り替わる直前、ちょうど、直後を検証します(例:日付集計なら月末日と翌月初日、金額区分なら区分境界の前後)。等号の有無による対象範囲の変化を確認します。
  • ゼロ値: 取引なし、残高ゼロ、配賦分母がゼロの場合を切り分けます。
  • 符号: 返品や取消などの負数を含め、符号の二重反転がないか確認します。
  • 端数: 行ごとの丸めと合計後の丸めのどちらを採用するか仕様化し、結果を照合します。
  • 欠損: 空欄、未登録コード、必須列の不足を検証します。未入力をゼロとして処理すると異常値を見落とす恐れがあるため、処理を中断すべき条件と担当者へ確認を求める条件をテストします。
  • 差分テスト: 同じ元データを確認済みの旧版や別の方法で処理し、新版との差を明細まで追います。旧版にも誤りがあり得るため、一致のみを合格基準とせず、仕様に照らして差分が説明できることを確認します。

テスト結果には、ケース名、入力値、期待値、実績値、差分の理由を記録します。修正後は該当ケースおよび関連ケースを再実行します。締切間際であっても、原因不明の差分を手入力で消去して完了としないことが重要です。

採用版の特定とレビュー記録の保存

元データ、作業中ファイル、確認済みファイルを区別し、採用版を特定できる名前や版番号を付けます。「最新版」という名前だけで上書きし続ける運用は避けます。

確認済み版には、対象期間、作成者、変更内容、テスト結果、確認者、確認日を結び付けます。AIへの主要な指示や生成日も、後からの仕様理解に役立ちます。ただし、機密情報を含む会話履歴の無差別な共有・保存は避け、社内管理ルールに従った記録にとどめます。

レビューは、確認済みのシート・計算、残っている例外、決算で使用してよい範囲が分かる記録にします。可能であれば作成者以外の担当者が重要な計算を元資料からたどります。人員が限られる場合も、決算に大きく影響する項目を優先して確認者を指定します。

承認後に数式や参照先を変更した場合は、新版として変更箇所と影響範囲を再検証します。翌月へ流用する際も、期間、データ範囲、例外発生状況を点検します。保存期間は、資料の性質、適用法令、社内規程に基づき定めてください。

計算根拠を説明できる状態で活用する

AIでExcelを作る時間が短くなっても、決算数値を説明するための確認は必要です。仕様の定義、数式・例外のテスト、採用版と確認記録の保存までを一体の業務として設計してください。

会計処理や税務判断を伴う計算や、どこまで確認すべきか迷う決算資料については、自社の業務実態と重要性を踏まえ、税理士にご相談ください。

参考