役員退職金はいつ損金になる? 決議・未払計上・支払までの税務と証憑

法人の税務・会計実務公開 2026年11月2日6分で読めます

適用時点: 2026年11月2日時点

執筆者: 檜垣秀治(公認会計士・税理士) 代表紹介を見る

役員の退職金を今期の費用にしたい。そう考えたとき、まず確認したいのは、退職の事実と支給額をいつ、どのような手続で確定するかです。

法人税の損金に算入できる年度は、退職日や振込日だけでは決まりません。適正な金額であることを前提に、決議、会計処理、支払の時期を整理する必要があります。この記事では、法人が役員に支給する退職一時金を中心に、損金算入の時期と残したい資料を解説します。

原則は、退職金の額が具体的に確定した年度

退職した役員に対する適正な額の退職金は、原則として、株主総会の決議等によって金額が具体的に確定した日の属する事業年度に損金算入します。退職した年度と金額を確定した年度が異なる場合には、この区別が必要です。国税庁 No.5208

「退職金を支給する方針を決めた」ことと、「誰に、いくら支給するかが具体的に確定した」ことは同じではありません。議事録の表題や開催日だけで判断せず、決議内容と、その会社で必要な決定手続を確認します。

支払が翌期になるからといって、それだけで損金算入も翌期になるわけではありません。一方、退職したという理由だけで、まだ確定していない金額を今期の損金に入れることもできません。

支払年度に損金経理する取扱いもある

例外として、実際に退職金を支払った事業年度に、その支払額を損金経理した場合には、支払った年度の損金とする取扱いも認められています。損金経理とは、決算で費用または損失として経理することです。法人税基本通達9-2-28

支払記録さえあれば、年度を自由に選べるという意味ではありません。金額が確定した時点、会計処理、過年度の申告内容を照合し、同じ退職金を二重に損金算入しないようにします。

図1 内定・具体額の確定・支払を分ける

段階 損金算入時期を考えるポイント 確認する記録
01 支給額の内定 具体額が未確定なら、内定額を未払計上してもその時点では損金にならない 内定内容、未確定事項
02 退職と具体額の確定 退職実態と適正額を前提に、原則は株主総会決議等で具体額が確定した年度 退職の記録、議事録、算定根拠
03 実際の支払 原則で既に損金算入した分を再計上しない。支払年度の例外は本文の条件を確認 仕訳、振込記録、過年度申告

通常の退職一時金について、確認の順序を示した図です。分掌変更や退職年金には、このまま当てはめられません。税務上の時期とは別に、給与や仕入代金、納税を含めた支払後の資金繰りも確認しておきましょう。

未払計上の前に、何が確定しているかを見る

実際に退職し、適正な支給額も具体的に確定している場合には、未払であることだけを理由に原則の損金算入時期が後ろにずれるわけではありません。

しかし、具体額が確定する前の年度に、取締役会で内定した額を未払金として費用計上しても、その時点では損金算入できません。会計の仕訳を入れることと、税務上の要件を満たすことを分けて確認します。国税庁 No.5208

退職年金は別の扱いです。退職時に将来の年金総額を未払計上して一括で損金にすることはできず、それぞれ支給すべき事業年度で扱います。法人税基本通達9-2-29

時期が合っていても、金額と退職実態の確認は必要

決議を済ませれば、どんな金額でも損金になるわけではありません。不相当に高額な部分は損金に算入されません。業務に従事した期間、退職の事情、同業種・同規模の会社の支給状況などを踏まえ、金額の根拠を説明できるようにします。国税庁 No.5211

計算方法の一つが、退職直前の給与額、在職期間、職責に応じた倍率などを使う功績倍率法です。ただし、計算式を使ったこと自体が金額の適正さを保証するわけではありません。算定表とともに、採用した給与額や倍率の理由も残します。法人税基本通達9-2-27の3

社長から会長になり、会社に残る場合も注意が必要です。分掌変更による退職金は、地位や職務が大きく変わり、実質的に退職したのと同様の事情があるかを確認します。肩書を変えたり報酬を下げたりしたことだけで判断せず、代表権や経営上の役割を見ます。

この分掌変更の取扱いでは、未払金等に計上したものは、原則として退職金として支給したものに含まれません。実際に退職した役員の退職金と同じように扱わないことが大切です。国税庁 No.5203

決議から支払まで、資料を一つにつなぐ

退職や金額決定の時点で作成した記録を、会計処理と支払記録につなげて保管します。後から説明する際にも、どの事実に基づく処理だったかをたどれる状態にしておきます。

確認すること 整理しておきたい資料
退職の事実・その後の役割 退任に関する記録、登記事項、引継ぎや職務の変更内容
金額の確定 株主総会等の議事録、退職金規程、具体額の決定資料
金額の妥当性 在職期間・報酬履歴・功績を整理した算定表、比較検討の資料
会計処理と支払 仕訳、未払金の明細、支払計画、振込記録、源泉徴収の計算資料

この表は実務上の整理例です。一式そろえば自動的に損金算入できるというものではなく、資料同士の日付、金額、説明が実態と一致していることが重要です。

支払時には、法人税とは別に源泉徴収の確認も必要です。「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無で計算方法が変わるため、支払前に確認します。国税庁 No.2732

役員退職金は、退任や事業承継、会社の資金計画が重なる場面の支出です。決算直前の仕訳だけで対応せず、退任予定と支給方法が見えた段階で、必要な決議、算定根拠、支払計画について税理士にご相談ください。

参考資料