インボイス未登録先への支払いが月100万円なら?追加負担を金額で比較
適用時点: 2026年8月28日時点(令和8年度税制改正を反映)
インボイス未登録先への税抜支払額が毎月100万円ある会社では、買い手側の年間追加負担は、令和8年10月から年24万円相当ではなく年36万円相当になります。その後も経過措置の控除割合が下がるたびに、年60万円、84万円、120万円相当へ増えていきます。
これは一般課税で仕入控除税額を実額計算し、税率10%の課税仕入れについて、登録先と未登録先へ同じ税込価格を支払うと仮定した概算です。課税売上げにのみ対応して全額控除できる仕入れであり、帳簿のみの保存で控除できる別の特例には該当しないものとします。簡易課税制度、2割特例・3割特例又は免税事業者では、申告計算上の影響が異なります。
今回の改正を会計ソフトの設定変更だけで終わらせると、経営判断に必要な数字を見落とします。未登録先との取引を続けるかどうかは、追加負担額、取引から得ている粗利、代替先へ切り替える費用を並べて判断する必要があります。
年間負担は24万円から最終的に120万円へ
税率10%の課税仕入れについて、税抜価格が月100万円、支払総額が月110万円とします。1年間の税抜支払額は1,200万円、消費税相当額は120万円です。
インボイス登録先から要件を満たすインボイスを受領した場合は、この120万円を仕入税額控除の対象にできます。一方、未登録先からの対象仕入れでは、経過措置により控除できる割合が段階的に下がります。登録先との比較で控除できなくなる金額は次のとおりです。
| 課税仕入れを行う期間 | 経過措置による控除割合 | 月間の追加負担相当額 | 年間の追加負担相当額 |
|---|---|---|---|
| 令和5年10月1日から令和8年9月30日 | 80% | 2万円 | 24万円 |
| 令和8年10月1日から令和10年9月30日 | 70% | 3万円 | 36万円 |
| 令和10年10月1日から令和12年9月30日 | 50% | 5万円 | 60万円 |
| 令和12年10月1日から令和13年9月30日 | 30% | 7万円 | 84万円 |
| 令和13年10月1日以後 | この経過措置による控除なし | 10万円 | 120万円 |
税抜支払額に対する追加負担相当率で見ると、2%、3%、5%、7%、10%です。令和8年10月の変更は1ポイントですが、月100万円の取引なら年間12万円の増加になります。
表は各割合が1年間続いた場合の年換算です。実際の事業年度が9月30日と10月1日をまたぐ場合は、各期間に行った課税仕入れを80%分と70%分に分けて計算します。また、法人税又は所得税への影響、税率8%の取引、価格改定はこの概算に含めていません。
追加負担だけで取引先を切り替えない
年36万円という数字だけを見ると、登録先への切替えが合理的に見えます。しかし、実際には代替先の価格、品質、納期、切替えに伴う社内作業も変わります。
例えば、別の登録先へ替えることで年間50万円の値上げになるなら、消費税の追加負担相当額が年36万円の段階では、未登録先との取引を続けるほうが支出は少ない計算です。逆に、同じ条件の登録先へほぼ費用をかけずに切り替えられるなら、未登録先との取引を続ける経済的な理由は弱くなります。
私は、未登録先を一律に取引対象から外す方法は勧めません。まず取引先ごとの年間追加負担相当額を出し、その取引で得ている粗利と代替可能性を確認するべきです。税務上の差額を見えるようにしたうえで、購買条件を経営判断として決めます。
価格を見直すなら一方的に決めない
追加負担を理由に未登録先へ値下げを求める場合は、取引条件を一方的に変更してよいわけではありません。
公正取引委員会のQ&Aでは、仕入先の仕入れや経費に含まれる消費税負担も考慮し、双方が納得したうえで価格を設定することが示されています。形式的な交渉だけで著しく低い価格を設定することや、登録を求めた後に新たな納税負担を協議せず価格を据え置くことは、独占禁止法や取適法上の問題となるおそれがあります。
買い手側で計算した追加負担相当額は、そのまま値下げ額を決める数字ではありません。交渉を始めるための資料として使い、相手側の負担と今後の取引量も含めて協議します。
1億円基準に該当する取引は別に確認する
令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、一のインボイス発行事業者以外の者から行う経過措置対象の課税仕入れについて、その年又は事業年度の税込合計額が1億円を超える場合、超えた部分に経過措置を適用できません。
この基準は、控除割合が70%になる日付の判定とは別です。同じ相手が複数の取引先コードで登録されている場合は、登録番号、法人番号、振込先などを手掛かりに、同一事業者単位に名寄せして集計します。
会計ソフトでは金額集計まで確認する
freee会計では、令和8年10月1日から「課対仕入(控70)10%」「課対仕入(控70)8%(軽)」を使用します。マネーフォワード クラウド会計・確定申告では、税区分とは別の「インボイス」欄で70%控除を管理します。
標準機能が日付に応じた区分を反映しても、外部CSVやAPIで80%控除を明示指定している場合は別です。マネーフォワードの仕訳帳CSVでは、インボイス欄を空欄にすると「適格」と判定されるため、未登録先が100%控除として取り込まれていないかも確認します。
月次決算では、未登録先に対する税抜支払額と、控除できない消費税相当額を取引先別に集計できる状態にします。税区分が正しいだけでなく、その金額が経営判断に使えることが重要です。
9月中に作る一覧表
最低限、取引先名、各課税仕入れを行った日の登録状況、年間の税抜支払見込額、現在の追加負担相当額、令和8年10月以後の追加負担相当額、代替先の有無を一覧にします。
月100万円の例なら、追加負担相当額は年24万円から36万円へ増えます。この12万円の増加だけを見るのではなく、未登録先との取引から得ている粗利や、別の取引先へ替える費用と比較します。
インボイス対応は、登録先か未登録先かを分類する作業ではありません。取引先ごとの採算を、消費税負担を含めて見直す作業です。判断に迷う取引や価格交渉を予定している場合は、契約を変更する前に税理士や関係機関へご相談ください。
創業する売り手側から登録・未登録を比較する場合は、別記事「創業時にインボイス登録すると納税額はいくら変わる?」で納税額を試算しています。
参考
- 国税庁「令和8年度税制改正特集(インボイス制度)」
- 国税庁「適格請求書等保存方式の概要」
- 公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」
- freee「消費税の仕入税額控除の経過措置について」
- マネーフォワード「令和8年度税制改正への対応」
- マネーフォワード「仕訳帳をインポートする」