創業時にインボイス登録すると納税額はいくら変わる?

税制改正・法令アップデート2026年8月28日6分で読めます

適用時点: 2026年8月28日時点(令和8年度税制改正を反映)

創業時にインボイス登録をするかどうかで、消費税の納税額は大きく変わります。

年間の請求総額が1,100万円、インボイス登録先への課税仕入れに年間330万円を支払い、すべて税率10%と仮定します。この場合、消費税の概算納税額は、未登録の免税事業者なら0円、2割特例なら20万円、3割特例なら30万円、簡易課税のサービス業なら50万円、一般課税なら70万円です。

差は最大70万円あります。しかし、0円だけを見て未登録を選ぶと、法人顧客からの受注や価格に影響する可能性があります。反対に、取引先がインボイスを必要としないのに登録すれば、納税と申告の負担だけが増えることもあります。

私は、インボイス登録を税金だけで決めるべきではないと考えています。登録した場合の納税額と事務負担、未登録によって失う可能性がある粗利を同じ表に置いて判断します。

同じ請求額でも納税額は0円から70万円まで変わる

比較の前提は次のとおりです。

  • 年間の請求総額は1,100万円で、登録した場合の売上税額は100万円
  • 年間の課税仕入れに対する支払総額は330万円で、一般課税で控除できる仕入税額は30万円
  • 売上げと仕入れはすべて国内の税率10%取引
  • 未登録の場合も登録した場合も、顧客への請求額と仕入先への支払額は同じ
  • 法人税又は所得税への影響、地方消費税の端数、個別対応方式による調整は考慮しない

この前提で、消費税の計算方法ごとに比較すると次のようになります。

状態・計算方法 概算納税額 計算の考え方
未登録で免税事業者 0円 消費税の申告・納付なし
登録して2割特例 20万円 売上税額100万円の2割
登録して3割特例 30万円 売上税額100万円の3割
登録して簡易課税・第5種 50万円 売上税額100万円から、みなし仕入率50%相当を控除
登録して一般課税 70万円 売上税額100万円から仕入税額30万円を控除

この表は、各制度を選択又は適用できることを前提とした比較です。誰でも5つから自由に選べるわけではありません。

創業すれば必ず2年間免税とは限らない

新規開業の個人事業者や新設法人は、基準期間がないため、原則として消費税の納税義務が免除されます。ただし、創業後2年間は必ず免税になるという意味ではありません。

個人事業者や法人は、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合などには、基準期間がなくても課税事業者になることがあります。法人では、事業年度開始時の資本金又は出資金が1,000万円以上の場合や、一定の大規模事業者に支配される特定新規設立法人に該当する場合も、免税になりません。

さらに、インボイス発行事業者の登録を受けると、基準期間の課税売上高にかかわらず課税事業者になります。まず自分が登録しなければ免税になれるのかを確認し、その後に登録の有利不利を比べます。

2割特例と3割特例には期限と対象者がある

2割特例は、インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者となった方について、納付税額を売上税額の2割とする制度です。対象は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間です。個人事業者では令和8年分が最後になります。

令和9年分と令和10年分には、要件を満たす個人事業者を対象として、納付税額を売上税額の3割とする3割特例が設けられています。法人は3割特例を利用できません。

したがって、これから創業する時期と事業形態によって、表の20万円又は30万円を選べるかどうかが変わります。特例を使えない場合は、一般課税又は簡易課税で申告します。

簡易課税は業種で納税額が変わる

表ではサービス業などの第5種事業を想定し、みなし仕入率50%で納税額を50万円としました。簡易課税のみなし仕入率は、卸売業90%、小売業80%、製造業等70%、その他の事業60%、サービス業等50%、不動産業40%です。

同じ売上税額100万円でも、卸売業なら概算10万円、不動産業なら概算60万円となります。複数の事業を行う場合は、売上げを事業区分ごとに分ける必要があります。

簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることや、期限までに届出書を提出していることなどが要件です。登録申請をすれば自動的に簡易課税になるわけではありません。

一般課税が有利になる創業もある

表の一般課税は70万円で、最も納税額が大きくなりました。これは仕入税額が売上税額に比べて少ないサービス業型のモデルだからです。

創業時に店舗工事、機械、システムなどへ多額の投資を行い、売上税額より仕入税額のほうが多くなる場合は、一般課税を選ぶことで還付を受けられる可能性があります。輸出売上げが中心の事業も同様です。

2割特例や簡易課税は、実際の仕入税額を使って計算しません。設備投資が多い年に特例や簡易課税を選ぶと、一般課税なら受けられた還付を受けられないことがあります。創業時の投資計画は、登録判断と一緒に確認します。

顧客が誰かで登録の価値が変わる

法人向けの受託業務など、一般課税の事業者が主要顧客である場合、未登録による買い手側の追加負担が取引条件に影響しやすくなります。顧客が同条件の登録事業者へ切り替える可能性や、価格交渉を受ける可能性を見込みます。

一方、一般消費者向けの事業では、顧客は仕入税額控除を行いません。顧客の大半が消費者で、自社が免税事業者になれるなら、受注維持のためだけに登録する必要性は相対的に低くなります。

ただし、買い手が未登録先との取引条件を見直す場合でも、一方的に著しく低い価格を設定してよいわけではありません。公正取引委員会は、双方が納得するよう協議することや、免税事業者が仕入れや経費で負担している消費税も考慮することを示しています。

買い手側で負担がどのように増えるかは、別記事「インボイス未登録先への支払いが月100万円なら?追加負担を金額で比較」で計算しています。

判断するときは税額と失う粗利を比べる

創業時には、次の金額を並べます。

  • 登録した場合の消費税納税額と申告・記帳の費用
  • 未登録を理由に受ける可能性がある値下げ額
  • 未登録によって失う可能性がある受注の粗利
  • 登録して一般課税を選んだ場合に見込まれる還付額

先ほどの一般課税70万円という例で、未登録により失うと見込まれる年間粗利が200万円なら、納税額だけを理由に未登録を続ける判断は合理的とは限りません。反対に、顧客が一般消費者中心で受注への影響がなく、設備投資も少ないなら、免税でいられる期間は登録を見送る選択が候補になります。

インボイス登録は、節税策でも信用の証明でもありません。自社の顧客構成、価格、投資計画に応じて、税負担と売上機会を比較するための選択です。

適用できる制度は、開業日、法人の資本金、特定期間の売上高や給与等支払額、基準期間、届出状況によって変わります。登録申請や設備投資を行う前に、具体的な数値を使って税理士へご相談ください。

参考