創業融資の資金計画をどう作る?売上の根拠と返済後のお金を整理する

法人の税務・会計実務2026年9月10日7分で読めます

適用時点: 2026年9月10日時点

創業融資を考えるとき、「いくら借りられるか」が気になる方は多いと思います。その前に整理しておきたいのが、事業にいくら必要で、開業後に毎月いくら残れば返済を続けられるかという点です。

売上予測、開業費用、借入希望額を別々に作ると、数字は埋まっていても、事業全体としてつながらない計画になりやすくなります。利益が出る計画でも、元金返済や生活費まで考えると手元のお金が足りないこともあります。

この記事では、日本政策金融公庫の創業計画書の考え方を参考に、経験や売上予測の根拠、必要資金、返済後の資金繰りをどうつなげるかを整理します。創業予定の方に加え、新しい事業や追加投資を検討する中小企業の経営者にも使える視点です。

経歴には、独立後の事業につながる経験を書く

創業計画書の経歴欄に、勤務先と在籍年数だけを書いていないでしょうか。事業を始める準備として整理したいのは、その仕事を通じて何ができるようになったかです。

飲食店であれば、調理、店舗運営、仕入れ、人員管理のどこを担当してきたか。受託サービスであれば、どの分野の仕事を経験し、顧客をどのように獲得してきたか。自分の経験を、これから行う事業に結びつけて説明します。

日本政策金融公庫の創業計画書セルフチェック「創業動機・略歴」でも、担当業務、役職、実績、身につけたスキルなどの記載が確認項目になっています。

自社の強みも、同じように具体化します。「品質が高い」「丁寧に対応する」という言葉に加えて、誰のどのような困りごとに、どんな商品やサービスで応えるのかまで整理すると、営業方法や売上予測につながります。

必要資金には、開業後の運転資金も含める

店舗の内装、設備、備品など、開業時に支払う金額は見積書から把握しやすいものです。一方、売上が安定するまでの家賃、人件費、広告費などは、見積りから漏れやすい部分です。

まず、設備資金と運転資金を分け、それぞれの内訳と支払時期を並べます。そのうえで、自己資金、公庫からの借入、他の金融機関からの借入など、調達方法と金額を対応させます。

公庫の資金計画のセルフチェックでも、設備の見積金額の妥当性だけでなく、事業開始後の赤字を補う運転資金や、借入に依存しすぎていないかが確認項目になっています。

運転資金は「何か月分」とだけ決めるより、開業後の売上と支出を月ごとに置くと考えやすくなります。売上の立ち上がりが遅れる月、まとまった支払いがある月、入金を待つ期間を含め、どの月に預金残高が最も少なくなるかを確かめます。

初期投資を抑える工夫は必要ですが、必要な設備や運転資金まで削れば、計画した事業を実行できなくなります。事業に必要な金額を積み上げてから、調達方法と返済負担を調整する順序が大切です。

売上予測を、客数・単価・契約数に分解する

「月商をこのくらいにしたい」という目標と、「その売上をどう作るか」という根拠は、分けて考えます。

飲食店や小売店なら、客数、客単価、営業日数が材料になります。受託サービスなら案件数と単価、月額サービスなら契約数と月額料金に分けると、何を確保する必要があるかが見えてきます。

すでに契約している顧客、条件を詰めている見込客、これから集客する顧客も分けます。契約書や注文書があるものと、まだ営業活動を始めていないものを、同じ確度で見積もらないようにします。

公庫の収支計画のセルフチェックは、売上高や売上原価の計算根拠、経費の漏れ、利益からの返済可能性を確認する構成です。売上だけでなく、その売上に必要な仕入れや人員も一緒に考えます。

業種の平均値を調べる場合は、公庫の小企業の経営指標調査も参考になります。平均値をそのまま自社の数字に置き換えるのではなく、単価、立地、商品構成、営業方法の違いを説明する材料として使います。

利益35万円でも、返済後に残るのは22万円

ここで、利益と返済後のお金の違いを見てみます。以下は創業融資の研修で扱われたラーメン店の試算を整理したもので、特定の店舗の実績や、公庫の現行の公式記入例ではありません。

項目 月額・計算の前提
売上高 800円×60人×25日=120万円
売上原価 売上の30%=36万円
人件費・家賃・支払利息などの経費 49万円
利益 120万円−36万円−49万円=35万円
借入元金の返済 13万円
元金返済後に残る金額 35万円−13万円=22万円

利益は35万円ありますが、元金を返済すると22万円になります。個人事業主が生活費として月30万円を確保したい場合、このままでは足りません。

この例では、原価以外の経費を毎月一定の現金支出とし、減価償却費を含めていません。売上と経費が同じ月に入出金されるものとし、事業主本人の税金・社会保険料、消費税の納付、追加の設備投資などは省略しています。実際の資金繰りを見るときは、これらも加える必要があります。

返済と生活費から必要売上を計算する

上の前提で生活費30万円を確保するための必要売上は、次のように計算できます。

(経費49万円+元金返済13万円+生活費30万円)÷(1−原価率30%)=約131.4万円

これは、返済と生活費を含む必要売上高です。会計上、売上と費用が一致する「損益分岐点売上高」とは区別して考えます。

客単価800円、月25日営業のままなら、平均で1日約66人の来店が必要です。60人から66人へ増やせるのかを、席数、営業時間、集客方法、対応できる人員から検討します。来店数を増やすために追加の広告費や人件費が必要なら、その経費も反映して計算し直します。

必要な売上がわかっても、その数字を計画書に書くだけでは事業は成り立ちません。売上を実現する方法があるか、難しければ費用や開業規模をどう見直すかまで考えることが、計算の目的です。

個人事業と法人では、生活費の扱いを分ける

個人事業では、事業主本人の生活費を事業の利益から賄います。ただし、生活費を確保できる収入を考えることと、生活費を事業融資の資金使途に含めることは別の話です。

法人では、役員報酬をすでに経費へ計上している場合、その報酬で賄う生活費を法人の計算へさらに加えると二重になります。法人の返済・納税資金と、経営者個人の生活費・住宅ローンなどを分けて確認します。

自己資金の割合や融資の上限だけで判断しない

自己資金について調べると、調査の平均割合や、さまざまな目安が出てきます。しかし、平均値は個別案件の融資条件や審査結果を示すものではありません。自己資金をいくら事業に使え、借入後にどれだけ返済負担が残るかを、計画全体で考えます。

同じように、制度上の融資限度額が、そのまま自社の借入可能額になるわけでもありません。公庫の新規開業・スタートアップ支援資金も、事業計画を確認し、審査の結果によっては希望に沿えない場合があると案内しています。

創業向け制度の対象条件と、新しい事業への投資計画も分けて確認します。すでに事業を営んでいる場合は、新分野へ進出することだけを理由に、すべての創業期の優遇が使えるとは限りません。事業の開始時期や申告状況などを整理して相談します。

計画書を作ったら、月別の資金繰りで確かめる

計画書の要点は、これまでの経験を使って、誰に何を売り、そのためにいくら必要で、どう返済するかです。まず全体が伝わるように整理し、商品説明や見積書、契約書など、根拠を補う資料を添えます。

次に、月平均の損益を月別の入出金へ置き換えます。売上が計画を下回った月でも支払えるか、元金の据置が終わった後も返済できるか、税金や設備代金の支払いが重なる月に資金が残るかを確認します。

入金と支払いの時間差については、回収・支払条件から資金繰りを見直す記事でも整理しています。利益の計画と資金繰り表を並べると、借入額だけでなく、営業や取引条件の見直しが必要な箇所も見つけやすくなります。

公庫の創業計画書セルフチェックでは、申込前の再確認や計画のブラッシュアップに使える項目が公開されています。まず自分で数字を置き、根拠が弱いところや説明しにくいところを整理すると、相談も具体的になります。

参考

Evolica Tax & Accountingでは、創業準備や事業の見直しにあたり、会計の数字と資金繰りをつなげて考えることを大切にしています。必要資金、売上予測、返済・納税の見込みを整理したい方は、無料相談のご案内から税理士にご相談ください。